本来はボディメカニクスの基礎知識の始めにお話しするべきテーマだったかも知れません。

介護のボディメカニクスの8原則ではサラッと「テコを上手く利用しましょう」って書いちゃってくれてますがテコの原理を人の身体に当てはめるのは非常に難解で、それこそがバイオメカニクスの専門領域と言ってよいでしょう。
しかし、ボディメカニクスでは詳細な計算は必要ありませんのでキレイサッパリ80%カットして要点だけを押さえてみましょう。
といってもかなり複雑ですから覚悟して下さいね。

それでは順を追って、まず始めに三種類のテコを復習しましょう。
現実には相手を持ち上げることはあっても、下に引いたり押さえつけたりすることはほぼありませんので第1テコを実用的に少し改造してみました。

三つのテコ

▲が支点、赤↑が力点、錘(おもり)が作用点です。

*念のために言っておきますが、このテコの図は釣り合って静止している状態を表しています。

 

では早速要点だけを整理しましょう。

第2テコは、錘(作用点にかかる力)に比べて支える力(力点にかかる力)が“必ず小さく”なり、逆に第3テコでは“必ず大きく”なるのがわかりますか?
名称は違いますがこの二種類のテコは力点の位置だけを変化させたものだと考えれば本質的には同じもので、力点の↑は貴方が出すべき力の大きさだと考えれば

<要点1> 支点~力点間の距離は長いほど楽に、短いほど辛い。
<要点2> 支点~作用点間の距離は長いほど辛く、短いほど楽。

と言い換えることができます。
これは第1テコでも支点のこちら側(自分が持ち上げている側)だけに限れば同じことが言えますね。
それに加えて、

<要点3> 第1テコの支点の向こう側の重心は支点より遠く、重いほど楽。

だということも分かります。

では実際に横になっている人を座らせる時の支点・力点・作用点がどこなのか考えてみてください。

ここでも細かいことは思いきって無視して説明します。

支力作用点

支点は床とお尻の接点△。力点は身体を持ち上げようと力を加える場所↑、作用点は相手の上半身の重心で赤●で示しました。

先ほどの要点1と2を現実に置き換えて言い直しますと、

床とお尻の接点(支点)からなるべく遠い所(頭側)を支えて体を持ち上げ(力点)、要介助者の重心は支点側になるべく近づけるように工夫すると楽に起こすことが出来る。」

ということになります。
図では肩付近と頭を同時に支えようとしています。いくら頭側が効率的だといっても頭だけを支えて身体を起こすわけにはいきませんからね。

それから私がなにかと批判的に書いている8原則の内の「手を胸の前でまとめる」は、上肢の重心を支点より遠くに置く行為(下図上)ですから、全く手に力が入らないなどの事情がない限りリーチ動作(手を起き上がる方向へ伸ばしていく)をして貰う方(下図下)が重心はより支点に近くなることが分かるでしょうか?

起き上がり上肢位置

 

さて次に、自分が力を加える方向の問題です。
学校で習ったテコの問題はどれもアームに対して直角に力が加わっていましたよね。(最初の図参照)

理由は問題を単純にするためですね。テコを習った時にはまだ、ベクトル分解や力の合成は確か習っていなかったでしょう。

支点を中心にアームを回転させる力(トルク)はアームが描く円の接線、つまりアームに対して直角に加わる時に最も有効に作用します。(下図左)

 

もし、下図右の赤矢印のように力が直角に加わらなければ、その力は “アームを回す力↑” と “アームを支点に押しつける力←” に分散して無駄になってしまいます。

トルク1

自分の力を有効に“起こす”ことだけに使いたいのなら、床とお尻の接点(支点)から力を加えている場所(力点)までを結んだ直線に対して直角に力を加え続けて、円弧を描くようにすると良いということですね。

起き上がりトルク1

つい早く起こしたいという気持ちが先走ると斜め方向の力になりやすいので注意が必要です。

 

今回はここまでです。基本的なテコやベクトルのお話は十分理解できたでしょうか?
細かいことをかなり省いたのですが思った以上のボリュームになってしまいました。

次回は続編としてまだ説明していないテーマについてお話しますので、ここまでに分からなかったことがあればしっかりと復習しておいて下さい。