伸展トルク増大とは、膝を伸展させようとする外力が通常よりも多く働く状態であることは説明しました。

例えば最も簡単な例は、下図のようにお尻を後ろに突き出して立っている時です。

 

 

伸展型姿勢1

股関節より上では 赤← のような回転力が生じ、それを止めるために下腿三頭筋が青→のように逆向きの力を作用させています。

これら二つの力に挟まれた膝では「膝伸展トルク」が加わっているのが分かります。

分からない方は太股が痛いと想像して、椅子から立ち上がってみて下さい。どうですか?身体が前かがみになっていませんか?

 

例えば大腿四頭筋の肉離れをしている患者さんは、痛い側に体重をかけるときにこのような姿勢をとります。
無意識に膝伸展トルクを増加させて、大腿四頭筋を補助しようとしているのです。

この場合にハムストリングスは膝屈筋群であるにも関わらず、膝伸展トルクを防ぐための実用的力をほとんど発揮できません。
というのも、ハムストリングス(大腿二頭筋短頭を除く)は二関節筋で、股関節の伸展筋でもあるからです。(次図)

 

 

ハムストリングスの膝伸展効果
足の裏が地面に固定されている場合、股関節の伸展(青→)は膝を伸展させる力になりますから、ハムストリングスの本来持っている膝屈曲力(赤↑)を自らの力で相殺してしまうことになります。

その結果、膝伸展トルクはほどんど後側の関節包や前・後十字靱帯などの非収縮組織だけで受け止めることになります。

 

以前の記事でも書きましたが、コラーゲン繊維は持続的な張力が加わると、徐々に伸びて元の長さに戻りにくくなる性質があります。

関節を連結している組織が伸びてしまうと関節が不安定になりますから、機能性も安全性も低下するのは間違いありません。

 

このような姿勢になる原因は様々ですが、ボディメカニクス的問題を非常に多く含んでいます。

一般の方には、何を書いているのかサッパリ分からないかもしれませんが、参考までに列挙しておきましょう。

 

 
<伸展型の主なボディメカニクス機能不全>

 ① 股関節の伸展/内転/外旋制限

通常、腰部~胸椎部の過剰な伸展が組み合わさっていることが多い。

 ② 足首の背屈制限

背屈制限だけでは必ずしも原因になるとは限りませんが、その他の要因(股関節の外旋制限や凹足/おうそく、外反母趾の痛み、モートン病など)や①または②との組み合わせにより悪化原因となります。

 ③ 大腿四頭筋の筋力が、背筋群や殿筋・ハムストリングスと比較してかなり弱いこと。

これが最も決定的な要因だと考えられます。
人は弱い筋に負荷をかけないようにします。
膝伸展筋が弱い場合は、上体を前傾させて背筋群や殿筋群・ハムストリングスを使って膝を伸展させようとするのです。

 

 
<改善方法の例>

例えば③を改善するとして、大腿四頭筋の強化で代表的なトレーニングと言えば?

スクワット運動ですが、通常のスクワット運動ですと大抵の場合、ハムストリングスも同時に収縮しています。

 そもそも大腿四頭筋が弱い人がスクワット運動をすると上体を前傾させたり、手を前に伸ばしたりすることで膝伸展トルクを増やそうとしますから、むしろハムストリングスが強化されてしまう可能性があります。(下図A)

スクワットAB

原因が「大腿四頭筋の筋力が、背筋群や殿筋・ハムストリングスと比較して弱いこと。」なのですから、これでは益々悪化させることになります。

 

図B のように膝の位置を前方に移動させるほど、上体の重心位置は後方に移動するのですが、足首の硬い人などは爪先立ちで不安定になるために結局、立ち上がる瞬間に素早く踵を地面に着けようとして膝の位置を後方に下げますから、Aと何ら変わらない動作になりがちです。

 

このことは、② 足首の背屈制限 が伸展型の原因になっているという論理的根拠の一つです。実際、このような動きが歩行や走行でも起こっているのです。
ニーエクステンション用のマシーンがあれば良いのですが、無い場合には例えば次のような工夫をします。

改良スクワット1

1. 片足を前に出して片膝立ちになります。

このとき、後ろ足の親指から小指の付け根が床にしっかりと着いているように注意します。

よくスポーツなどで「拇指球(親指の付け根)で蹴れ」と言われますが、私はあれはバイオメカニクスデータの間違った解釈によって生まれた「勘違い」だと思っています。
拇指球だけで強く蹴るような動作はパフォーマンス低下の原因になったり、足や膝の障害の原因になりますので避けるべきです。

後ろ足の膝は、前足のすぐ横に置くようにします。

 

2. 後上方へ向けて一気に立ち上がります。

前足ではなく“後ろ足の膝を伸ばして立ち上がる意識”を持つことが重要です。

 

3. 開始時に前足だった側が一歩後ろになるまで一気に立ち上がることが重要です。

 

広い場所ならこのまま一歩ずつ後ろに下がり続けると良いでしょう。
こうすることでトレーナーがいちいち注意しなくても、上体の前傾を防いでハムストリングスの収縮を抑えることができます。

 

次回は、屈曲型についてお話する予定です。