ボディメカニクスとは機能解剖学・運動学・力学・構造学・バイオメカニクスなどの研究から生まれた、「身体の理想的な使い方」を修得するためのトレーニングや学習法のことを言います。

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ここではおおよそボディメカニクスとはどういうものなのか?を、ボディメカニクスと似た言葉である「機能解剖学」「バイオメカニクス」「運動学」「運動機能学(キネシオロジー)」 などと比較して解説していきたいと思います。

始めに、機能解剖学との比較です。

「解剖学」といえば身体のパーツの名称、構造や形状を調べたり統計をとったりする学問ですが、機能解剖学ではとくに筋骨格系に着目して各々の関節で起きる基本的な動きを学びます。

例えば下図のように物を持ち上げるときの肘関節の屈曲動作における主導筋、補助筋の働きなどを学ぶのが機能解剖学で、「基礎医学」の1つに分類されます。

特定の筋肉だけを鍛えるような、器具を使った筋トレなどではこのような知識を生かすことができます。

肘屈曲1

ところが、スポーツなどでの身体の動きを考えるには、十分な知識とは言えません。

上図を例にしますと、この肘の位置を固定するために使われている肩関節(肩甲上腕関節)やその周囲筋(ローテーターカフ・三角筋や烏口腕筋)、更には、肩甲骨や鎖骨を固定している筋(僧帽筋や前鋸筋・鎖骨下筋)、脊柱の屈曲を防いでいる脊柱起立筋…(以下、足先までの筋)などの関係性や、姿勢変化による各筋や関節への負荷の増減、各筋の筋力バランスによる動きの変化などなど…

身体全体の機能(時には環境との関係)にまで視野を広げて考える必要があるのです。(下図参照)

肘屈曲2

しかも、同じ動作でも人によって使われる筋肉の種類・量・配分などが異なりますので、動作における教科書的な知識では全く対応できません。

ボディメカニクスでは「理想的・機能的動作の実現」が最大の目的です。

(*理想的とは考え得る最高のパフォーマンスを、機能的とは仮に解決不能な問題があっても使える機能を駆使して最良の動作を実現するという意味です。)

個人個人の動作を分析して、との筋肉に余分な負担がかかっているか? どの関節の動きが悪いのか? どういう意識やイメージで動作を行っているのか? など人間をより包括的に捉えて、コーチング、コンディショニングを行うのがボディメカニクスだと言えるでしょう。

勿論、ボディメカニクスはスポーツ競技だけに留まらず、日常生活動作や怪我、運動機能障害の改善にも役立ちます。

次に、バイオメカニクスとの比較です。

視野を身体全体に広げた…という意味では非常によく似た学問だったのですが、近年、人工関節や義足などの素材や形状・強度の研究などに利用されることが多くなるにつれて、全体の機能より特定の部位への複雑な力学的負荷(剪断力・歪力・材料力学)などの専門的研究分野へと移行しているように思われます。

また、多くの機材を使って、例えば床反力計(床にかかった力の大きさや方向・時間を測定します)や筋電図計(筋肉の活動量や時間を測定します)・画像による3D解析などを行って、詳細なデータを数値として計算する点もボディメカニクスとは異なる点です。

このように現在のバイオメカニクスは研究・解析分野として特化した存在となり、直接クライアントと接してトレーナーの役割を果たすということはほとんどありません。

勿論、ボディメカニクスもクライアントの動きを機械ではなく目で観て、どのような負荷が関節や筋肉に加わっているのかなどを正確に予測できなければなりませんから、バイオメカニクスの研究データは大いに役立っています。

ボディメカニクスはバイオメカニクスを基にして、「指導現場での実践」に重点をおいた形に進化したものだと言えます。

医学に研究分野と臨床があるように、バイオメカニクスは研究に、ボディメカニクスは臨床(現場)に特化したものだと考えて頂ければ良いかと思います。

次に運動学との違いです。

日本の運動学はもともと運動全般を扱う分野で、「運動学」と題された書籍では、機能解剖学から代謝、栄養学などその内容は多岐にわたっています。

しかし、機能解剖学やバイオメカニクス、運動生理学的が独立した学問になっていき、「運動学」は専門分野ではなく入門的に役割になっています。

また、言葉に関しては、欧米でいう kinesiology(=運動学・運動生理学)は筋骨格系の機能運動学や関節生理学全般をさしているのに対して、日本でキネシオロジーというと代替療法や、果てはスピリチュアルな療法までを指す単語になってしまっているようですね。

おそらくカイロプラクティックの中のアプライドキネシオロジー(AK)などの影響ではないかと思われます。

一方、ボディメカニクスでは代謝や栄養学といったものはあまり扱いませんし、日本のキネシオロジーとも全く方向性が違いますので、運動学とはかなり遠い関係にあるかもしれません。

機能運動学では運動機能障害を幅広く扱い、主に脳・神経系の機能回復に主眼がおかれているようです。

脳や神経障害のリハビリテーションが主な目的ですから当然でしょう。

理学療法士・作業療法士という国家資格者が治療にあたります。

ボディメカニクスでは基本的には脳・神経に障害のない人の運動を扱う点で異なりますが、まれに脳梗塞の後遺症や末梢神経障害などを扱うこともあります。

とはいえ、ボディメカニクスではあくまで機能的動作の実現が目的ですので、例えば過去の症例では、物が掴めないほど握力が低下した患者さんへのアプローチは以下のようなものでした。(同じ症状でも人によってアプローチは変わります。)

握力というのは単純に手指の屈筋群が収縮しているだけではありません。

皆さんも実際に試してみると分かりますが、下図のように手首を 屈曲(a) している時と 背屈(b) しているとき、あるいは前腕を 回内(c) しているときと 回外(d) しているときでは握力の強さがかなり違います。

手・前腕姿位
これは二つ以上の関節をまたがった二関節筋の作用によるもので、一つの関節を逆方向に固定することで筋腱が他動的に伸張されて収縮力が強化されるからです。

つまり 背屈(b) と 回外(c) で握力に関わる筋肉が最も伸ばされて強い力を発揮できる筈です。

その患者さんの場合、手首を動かせない期間が長かったせいか、それともリハビリで手の屈筋群の訓練ばかり行っていたせいか、手首の背屈と前腕の回外可動域がかなり減少していましたのでそれを改善すると、直ぐに握力が10㎏以上増加しました。

これはボディメカニクスの中でも最も基本的な考え方の一例ですが、他にも様々な方法で機能的な動作を実現していきます。
最後にもう一つ、いわゆる「筋トレ」「スポーツトレーナー」とボディメカニクスの違いについても少し触れておきましょう。

「運動能力を向上させる」という点ではボディメカニクスも同じ方向を目指していると言えます。

しかし、筋トレは通常、特定の筋だけに大きな負荷をかけて筋力アップや筋肥大させることを目的とします。また一般的にスポーツトレーナーはそれらのトレーニング動作の形や効果について教えるのが仕事です。

ボディメカニクスでもしばしば筋トレは行うのですが、その目的は大きく異なります。

全身動作におけるパワー発揮には、筋収縮のタイミング関節可動域のバランス筋力のバランスなどが深く関わっているので、筋力トレーニングをしたからといって単純にはパワーがつかないどころか、かえって悪影響を及ぼす場合すらあります。

いくつかの例を見ながらこれらについて一緒に考えていきましょう。

1) 筋収縮のタイミングと筋力バランス

野球の投球などを例にとると話が複雑なので、貴方がスリッパでゴキブリか何かを叩く時のことを想像してみましょう。

敵は素早いので振りかぶってはいられません。
肘を固定しておいて上腕三頭筋の収縮で肘が素早く伸展して叩く動作を開始します。

このとき、スリッパは慣性力によってそこに留まろうとして「しなり」ます(下図水色→)が、それに合わせて手首の背屈でスリッパの「しなり」具合を調整します。

スリッパのしなりが弾性回復し始めるタイミングに合わせ、手首を尺屈・屈曲させれば、スリッパの先は加速してスナップの効いた素早い叩き動作が完成するのです。

G叩き1
ところがもし三頭筋を鍛えて、もっと速く肘を伸展できるようになると、下図のようにスリッパのしなりが回復する前に対象に当たってしまいますから、結果的にスリッパ先端の速度は必ずしも速くなるとは限らないのです。(これはゴルフでパワーのある人はシャフトの硬いものを選ぶ理由と同じですね。)

G叩き2
もし、スリッパが身体の中の一つのパーツだと考えてみると、ある特定の筋力を強化してもダイナミックな動きの中では弱いパーツがその力に負けてしまうことを意味しています。そしてこれは大抵、怪我に直結します。

2) 筋力バランス

今度は自動車が壊れて押したりするような状況を考えてみましょう。

仮に貴方がベンチプレスで300kg を持ち上げることが出来たとします。
これは言い替えれば肩から手までの間だけで300kg出力できるということです。

しかし、立っている状態で対象物を前方に押す(下図A)と、対象物からの反作用が自分の肩を後方に300kgの力で押し返してきます(下図B)から、対象物を押し続けるためには、手以外の他のパーツもまたこの300kgの力に耐えなければいけないということです。

壁押し1
ところが仮に腹筋が弱くて、腰部だけは200kgの力にしか耐えられないとしたら、いくら腕で300kg出力しても実際に押す力は200kg、残りの100kgは腰を反らす力に変わってしまいます。

壁押し2この腰を反らす力は関節や骨を痛める原因になります。

つまり、自分の力で自分を痛めつけているわけです。

根本的解決には当然、腹筋群を強化しなければならないわけですが、実はこれ以外にもその場しのぎの解決策があり、身体は自然にその方法を使っていることがあります。

その方法とは…

1つは、対象物を押すフォームを下図(D)のように変えることです。

壁押し3
こうして、腰椎を伸展させようとする力に対して前傾することで、実質的にテコのアームは短くなるので(上右図)腹筋群が弱くてもこれに抵抗することができます。

しかし、このような動作を繰り返していると、腹筋群は短縮したまま硬くなってしまいます。

もしこのような場合に、硬い筋肉を見つけて無闇にストレッチをするとどうなるか… 途端にパフォーマンスが落ちたり怪我の原因になることがお分かり頂けますか?

ボディメカニクスで行う筋トレや動作トレーニングは、このような「個人個人異なる機能的アンバランスを見つけて理想的な状態に整えること」が目的ですので、競技のための激しい訓練は各々の競技コーチやトレーナーの元で行っていただいて、貴方はボディメカニクスで自分自身の身体をもっと深く理解し、トレーニングで崩れたボディバランスを整える方法を学ぶべきです。
もし貴方の目的が

「日常生活で使いたい」
「今やっているスポーツがもっと上手くなりたい」
「身体の不調を改善したい」
「競技レベルを上げたい」
「もっと楽に身体を使えるようになりたい」
「運動の指導に生かしたい」
「単に学問として興味がある」

など、どんなことであったとしても、ボディメカニクスは “生涯学ぶ価値のある学問” だと思いませんか?

勿論、簡単に修得できるものではありませんが、まずは 自分の身体を理解して感じる ことから始めるのが一番でしょう。

理論や知識をどの程度まで学ぶか?は、貴方自身の目標設定によって大きく異なりますから、あとからゆっくり考えれば良いのです。

ボディメカニクスレッスンでは理論とその具体的な利用方法を学び、それを実際に体験して頂けます。

ご予約の際に、貴方が知りたいことや「こんなことをやってみたい!」というご要望をお聞かせ頂ければ、なるべく目的にあった内容をご用意いたします。

学んだことをどう生かし、応用するかは貴方次第ですから、創意工夫しながら色々なことに役立てて頂きたいと思います。
長文を最後までお読み頂きましてありがとうございます。
ボディメカニクスについて、少なからず興味をもって頂けたでしょうか?

B.A.C studio では、ボディメカニクスの理解と修得のためのお手伝いをします。

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